作曲家の時代とフォントの関係。バロック・古典派・ロマン派・現代、それぞれ似合う書体は?
- 23 時間前
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チラシを作るとき、フォントはどうやって選んでいますか?
「なんとなく上品そうだから」「クラシックっぽいから」——そんな選び方をしていませんか。実はもっと確実で、しかも楽しい選び方があります。演奏する曲の時代と合わせるという方法です。
というのも、私たちが今使っているフォントの多くは、音楽史とほぼ同じ時間を歩いてきた仲間だからです。バッハが活躍していた頃には、その時代の書体がありました。ベートーヴェンの時代には、その時代の書体があったのです。
同じ空気を吸って生まれたもの同士は、やはり相性がいい。今日はそんなお話をします。
バロック(〜1750年頃):ペンの筆跡が残る書体

バッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディ。この時代に似合うのは「オールドスタイル」と呼ばれるセリフ体です。
代表的なのは Garamond(ガラモン) や Caslon(キャスロン)。ガラモンの原型は16世紀フランス、キャスロンは1720年代のロンドンで生まれました。キャスロンにいたっては、バッハがライプツィヒでカンタータを量産していたのとまさに同時期です。
この時代の書体の特徴は、手書きのペンの動きがそのまま残っていること。文字の軸がわずかに斜めに傾いていて、線の太い細いも自然な呼吸のように移り変わります。均一ではないけれど、そこに人の手の温度がある。
装飾音やアーティキュレーションで演奏者の呼吸が表れるバロック音楽と、どこか通じるものを感じますね。
古典派(1750〜1820年頃):均整と、鋭いコントラスト

ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン。ここで書体の世界にも大きな転換が起こります。
Baskerville(バスカヴィル) が世に出たのが1750年代。モーツァルトが生まれたのとほぼ同じ頃です。そして Bodoni(ボドニ) や Didot(ディド) が生まれたのが1790年前後、モーツァルトの晩年からベートーヴェンが世に出ていく時期にあたります。
これらの書体は、ペンの筆跡から離れていきます。文字の軸はまっすぐ垂直に立ち、縦線は太く、横線は髪の毛のように細い。感覚ではなく、理屈と設計で組み立てられた美しさです。
均整のとれたフォルム、明快な対比、無駄のない構造。ソナタ形式の設計美をそのまま文字にしたような書体、と言ったら褒めすぎでしょうか。ボドニで組んだ「Mozart」の文字が凛として見えるのは、決して偶然ではないと思っています。
ロマン派(19世紀):感情の時代は、書体も自由になる

ショパン、シューマン、リスト、ブラームス、ワーグナー。
19世紀は、印刷と広告が爆発的に広がった時代でもありました。ポスターで人目を引く必要が出てきて、書体は一気に多様化します。
Clarendon(クラレンドン) は1845年、ロンドンのファン・ストリート鋳造所のロバート・ベズリーによるものです。シューマンが《ピアノ協奏曲》に取りかかり、リストが演奏旅行で熱狂を巻き起こしていた頃ですね。太いけれど武骨ではなく、セリフの付け根がやわらかく丸みを帯びている。強さと品を両立させた設計で、今も見出し書体の定番です。
Tuscan(トスカン) はセリフの先端が二股に割れて幅の非常に狭く、面白いフォントです。ガラ・コンサートや華やかな企画ものや、レトロな雰囲気を出したいときに合うかもしれません。
そしてもうひとつ忘れてはいけないのがスクリプト体です。19世紀の初版譜の表紙などのタイトルは、職人が銅版に手で彫った、とても繊細な飾り文字で書かれているものが見られます。ショパンやフォーレ、サロン音楽などのプログラムなら、スクリプト体をぜひ使ってみたいですね。
近現代(20世紀〜):サンセリフの登場

ドビュッシー以降、そしてストラヴィンスキー、バルトーク、現代音楽へ。
20世紀に入ると、飾り(セリフ)を削ぎ落とした サンセリフ体 が主役になります。バウハウスの空気の中から生まれた Futura(フツラ) が1927年。幾何学的な円と直線だけでできた、ある意味とても人工的な文字です。そして Helvetica(ヘルベチカ) が1957年。
装飾を捨て、構造そのものを見せる。調性という約束事を手放して、音そのものを問い直した20世紀の音楽と、同じ方向を向いているように思えます。
現代作品やミニマル・ミュージックのコンサートなら、サンセリフ体1種類だけで組んでしまうのも格好いいかも。
日本語のフォントはどう選ぶ?
ここまで欧文の話をしてきましたが、日本のコンサートチラシは、実際には和文書体が主役ですよね。こちらも考え方は同じです。
明朝体は欧文のセリフ体にあたります。縦画の先の「うろこ」や、線の抑揚が、セリフ体と同じ役割を果たしています。バロックから古典派、ロマン派まで、クラシックのチラシの多くは明朝体で品よくまとまります。同じ明朝でも、線の細い繊細なものは古典派やフランス近代に、うろこが強く出た伝統的なものはバロックや荘厳な宗教曲に合います。
ゴシック体はサンセリフ体にあたります。現代作品はもちろん、ポップス寄りの企画、親子向けコンサートのような親しみやすさを出したい場面にも。
筆書体は、邦楽や和楽器とのコラボ、日本の作品やテーマを扱う演奏会で力を発揮します。
和文と欧文を組み合わせるときのコツは、性格の近いもの同士を合わせること。明朝体にはセリフ体(ガラモンやボドニ系)、ゴシック体にはサンセリフ体。そして、線の太さと文字の大きさのバランスを揃えてあげると、ぐっと自然になります。和文に対して欧文は、少し大きめにすると釣り合うことが多いです。
プログラムが「全部入り」のときは?
「バロックからロマン派まで幅広く演奏します」というリサイタルも多いですよね。そういうときは、無理に時代を1つ選ぶ必要はありません。
考えるべきはその演奏会で一番伝えたいことです。メインに据えた曲の時代に合わせてもいいですし、「時代を旅する」というコンセプト自体を打ち出すなら、あえて中庸な書体を選んで、写真や色で個性を出すという手もあります。
大事なのは、選んだ理由があること。「なんとなく」で選んだ書体と、「この演奏会だからこれを選んだ」書体では、仕上がりの説得力がまるで違ってきます。
フォント選びは、曲を選ぶのと少し似ています。その演奏会で何を伝えたいのか。誰に届けたいのか。そこから逆算していくと、迷いが減って、選ぶ作業そのものが楽しくなります。
私自身、チラシをデザインするときは必ず曲目を確認して、その音楽が生まれた時代を思い浮かべながら書体を選んでいます。やはり、演奏会のテーマや曲の背景にあったものを選ぶのは楽しいし、それらしい世界観のデザインに仕上がります。
次にチラシを作るとき、あるいはどこかでチラシを手に取ったとき、ぜひ文字にもちょっと目を向けてみてください。新しい発見があるかもしれません。



